いつにない焦燥感の真っ只中で何コール目だか分からない電子音を聴きながら、遂に辿り着いた扉を思い切り蹴破った。普段のアズールであれば有り得ない誤字だらけのメッセージに、珍しく部活へのやる気を見せたフロイドへ妨害する事のないジェイドから寄越された短い着信。それらが示すのは緊急事態。そう読んだからこそ迷い無く、それがアズールの部屋であるにも関わらず取った行動だった。
「ジェイド! アズール! 無事!?」
思った以上に大きくなった自らの声が室内に反響した。そして、それっきり言葉が続く事はなかった。
「フロイド! 蹴って開けるなといつも言っているだろう!」
「まあまあ。助けに来てくれたんですから、いいじゃないですか。ねえ、フロイド」
目の前の光景に口が開いたまま止まる。フロイドは二人が大怪我をして動けないだとか、妙な魔法に掛かって形態が変化させられているだとか、そういった状況を想像していた。しかし現実は、二人は怪我もしていなければ真っ当な人間の体をしている。普段通りでないのは、服装がハロウィーンの衣装であることくらいだ。いや、もっと大きな”異常”は目に見えて分かる。分かるが。呆れ切った脳が思考する事を放棄し始める。
「すみません、フロイド。見ての通り、身動きが取れなくなってしまって」
数瞬前まで心底心配していた片割れは、眉を下げて言いながら、見事なまで布同士が絡まった二人の両腕、両脚を持ち上げた。
「だからメッセージも上手く打てなかったんですよ」
「通話にしようとも試みましたが落としてしまって。そのせいで慌てさせてしまいましたね」
手の中に辛うじて留めていたスマホが滑り落ちそうになって、やっと握り直した。そして、思考を拒む脳をどうにか再起させ、口を開いた。
「何やってんの?」
「……衣装合わせを、少々」
ベッドの上で、ジェイドを下敷きに四つ這いになったアズールが目を泳がせてそんな事を言う。
「ええ、脅かしの練習をしていたら熱が入ってしまって、このように」
半ば脱げかけている上に繕えない程度頬を上気させたジェイドが用意していたのだろう言葉を続ける。
――隠したいなら衣装以前に絡まっている指を離せ。目を合わせる度にはにかむな。せめてベッドから降りて待て。
指摘するのは簡単だった。鈍感でも馬鹿でもないフロイドは、見た瞬間に何が起きたのか頭から尾まで理解した。してしまっていた。
「…………あ、そう」
しかしながら、その真実を暴く事に何のメリットもない。珍しく良い試合をしていた先刻までの自分を思い返し、運悪く端末をポケットに入れていた事を呪いながら、どうでもいいフリをしてマジカルペンを振り翳した。
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