柔らかなシーツに沈んでいた意識が、ふと浮き上がった。数度、軽くなった瞼を瞬かせる。視線を肌色から頭上のベッドヘッドへずらす。時計は午前三時を告げている。起床時刻よりも随分と早い。今から行動を始めても良かったが、特にしたい事も思い付かなかったジェイドはもう一度目を閉じてみた。
中途半端に横を向いていた身体を正そうと身動ぎをする。上へ向けた身体は、しかし背中を強めに引き寄せられて元通りの場所へ戻された。ぐいぐいと両腕で自分の胴体に押し付けてくる相手に少しだけ驚いて、少しだけ面白くて、安心する。目の前に晒される喉元がゆっくりゆっくりと上下を繰り返す。深い眠りについているのだろうか。噛み付きたい衝動が横切る。貪欲に身体を引き寄せてくる腕が、それとは対照的に優しく背を撫でた。その感触が、まるで手負いの獣を落ち着かせんとする手付きのように思えて、吊り上がる口角が抑え切れない。いっそ動物のように、と頭をその胸に擦り寄せる。まだその手は背中を撫でている。
たった二本になっても、頼り甲斐のある腕だと思う。本数が重要な訳ではなく、彼自身の胆力の問題なのだ。こうも側で、警戒心の欠片も失って眠れるのは。そんな事を彼に伝えるつもりは微塵もないけれど。目の前にあるあどけない寝顔をそっと指でつっついた。
「う……」
頬を潰すと、寝苦しげに呻く。銀色の睫毛を震わせながら、枕に顔を押し付けた。それでも、背中へ回された腕は外れない。なんだか可笑しくて、くすくす小声で笑う。次は頬を引っ張ってみた。ぐにっと伸びる。ゴムみたいだ。更に呻いて、今度は重心が後ろに向かっていく。今度は腕が離れた。
「あ、」
危ない、と言いかけて、やめた。ベッドから落ちてしまうと思ったが、見事に手前で止まったからだ。感心していると、すぐに腕が伸びてきて、ふらふらと目の前を彷徨う。わざとそこへ近寄ってみると、すぐに絡め取られて、ぎゅうっと頭から抱き締められた。温かな体温と優しい心音に何故だか嬉しくなる。しかし今は、自分の感情を論理的に解剖する気はなかった。正体なんてどうでもいいくらいには心地の良い感情に揺蕩っていたかった。またくすくすと笑って目を閉じた。
頭頂部に鼻先がぐりぐりと押し付けられる感覚が分かる。寝惚けているその顔が見たくて、そっと下から覗き見る。すると、ジェイドの髪に口付けるアズールの姿が目に入った。彼は薄く目を開けて、嬉しそうに微笑んでいた。ああ、どうにもならないな、と醒めてしまった頭を無理矢理に微睡へと押し込みながら、ジェイドもその背中へ腕を回して抱き締めた。
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