陽光が心地良い。そう思った時には、肩に重みが乗っていた。アズールは夢中で読み進めていた錬金術の教本から目を離し、隣に目線を動かした。さらりとしたエメラルドグリーンの髪が風に揺れている。寄り掛かる頭をそっと覗き込むと、常より精悍な眼差しはすっかり瞼に覆われていた。
「ジェイド?」
小さく声を掛けてみるが、返るのは細やかな寝息だけだった。珍しい、と真っ先に思う。普段から他人に弱味の一切を見せようとしない男が、こうして無防備に眠りに就く姿など初めて見たかもしれない。
何となく、起こすのは勿体無いと思い、頭がうろうろと宙を彷徨うのを捕まえて引き寄せる。頭蓋骨同士がこつりと当たった。規則的な呼吸は途絶えず、眠りの最中にある重い頭をアズールの側頭部に預けてきた。
本をベンチに置いて、ちらと視線を再び稀有な寝顔へ向ける。あどけなさすら在る柔らかな表情は、本当にジェイドの物だろうかと疑う。時折、こくん、と首肯するように動くと、髪がさらりと頬に当たる。暖かな陽気に包まれているせいだろうか、それすらも心地良く感じてしまう。
「んん」
小さく喉を鳴らして、ジェイドの腕が動く。起こしてしまったかと身を固くして待つが、固まる腕にするりと彼の腕が巻き付いてきた。思わず声を上げそうになった。そのまま手が宙を探る。暫し考えながらゆらゆらと彷徨うジェイドの手を見つめ、はあ、と息を吐いた。その手に自らの手を差し出すと、たちまち指も絡みついてくる。
「……ん、ふふ」
ぎゅう、と指が握られる。微かな笑い声が耳元で響いて、ぶわっと顔に熱が集まるのを自覚した。握る手は海では知らなかった温もりを持っている。
「ああ、もう……!」
殊更深く寝入ってしまったのだろう。ジェイドの全体重がアズールの半身に掛かる。段々と触れた腕が熱くなる。誰もいない中庭の隅っこで、気付いてしまった感情を誤魔化すようにずれた眼鏡を押し上げた。
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